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2023年春、尹錫悦政権の迷走

韓国の尹錫悦政権は、昨年2022年5月10日にスタートしてほぼ1年が経とうとしている。しかし、その支持率は30%台、不支持率は60%前後という低調な政権運営を強いられている。昨年6月の統一地方選挙では与党「国民の力」が勝利したものの、来年4月の総選挙までは少数与党を克服できず、最大野党「共に民主党」に政党支持率でも及ばない。今年の春、3月中旬には日米首脳会談に訪日し、4月下旬には米韓首脳会談のために訪米した。この春の尹錫悦政権の迷走ぶりをみてみる。

日韓首脳会談の成果は?

 3月16日、尹錫悦大統領は実質11年ぶりの日韓首脳会談に来日した。元徴用工問題で最悪と言われる日韓関係を改善させるための訪日だったが、果たして関係改善はできるのだろうか。元徴用工問題は大法院(最高裁に相当)が日本企業に賠償支払いを求めたものの、被告企業が拒否していることから、資産の差し押さえ手続きとなり、現金化が待ったなしの状況になっていた。日本政府は現金化が行われれば、さらなる報復をチラつかせて恫喝を繰り返していた。そこで、尹錫悦政権は大法院に待ったをかける一方、「解決案」を探ってきた。原告・遺族との話し合いを重ねながら、「解決案」が出されたのは3月6日。説明に立った朴振外相によると、韓国政府傘下の「日帝強占動員被害者支援財団」を組織し、日本企業に代わって賠償金を支払うというもの。韓国の民法には「第三者弁済」というのがあり、財団が被告日本企業に代わって支払う仕組みだ。原告・遺族の同意が必要なことから、この「解決案」を発表するにあたって、韓国政府は同意を取り付けるべく説得工作を続けていた。しかし、結局拒否する人もいて、見切り発車となった。韓国政府はまた、日本政府に対して「誠意ある対応」を要請していた。ひとつは財団に被告企業など日本企業が参加することであり、もうひとつは岸田政権による謝罪表明だったが、日本政府はいずれも拒否していた。日本政府は賠償も謝罪もせず、従来の方針を貫いていた。
3月16日に日韓首脳会談が東京で行われた。4月26日の米韓首脳会談は国賓として訪米したが、日韓首脳会談はそのような厚遇は行われなかった。したがって、天皇による晩餐会も行われず、両首脳が夕食を共にし、二次会で好物のオムライスと生ビールの接待を受けただけだった。まず、元徴用工問題だが、首脳会談においても財団への日本企業の参加は表明されず、謝罪についても「歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」と言っただけで、岸田首相の言葉はなかった。この姿勢は安倍政権以来一貫したものであり、安倍、菅、岸田の反省の言葉は一切行われていない。この首脳会談で特に取り上げられたのは、小渕恵三首相と金大中大統領の間で交わされた「日韓パートナーシップ(1998年)」だった。日韓の共同文書である「日韓パートナーシップ」には、「小渕総理大臣は、今世紀の日韓両国関係を回顧し、我が国が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫びを述べた」と明記されている。しかし、この時も未来志向が強調されるばかりで、賠償は行われなかった。3月の日韓首脳会談では共同宣言は出されず、共同記者会見が開かれただけであり、日韓の合意は不透明だ。こうした尹錫悦大統領の姿勢は、自身始めての3・1朝鮮独立運動の短いスピーチにも見られた。大統領は、日本は「過去の軍国主義の侵略者から、我々と普遍的価値を共有し、安全保障や経済、グローバルな課題で協力するパートナーとなった」と述べた。日本の侵略に起因する諸問題が解決されていないにもかかわらず、それを非難すべき3・1節のスピーチでパートナーになったと宣言したのだった。
元徴用工をめぐって日韓双方は報復の応酬になっていた。日本側は半導体製造の素材輸出規制を行い、「ホワイト国」からの韓国の除外措置をとり、韓国側はWTOへの提訴、日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)の停止に踏み切った。今回の首脳会談において日韓双方はこうした報復措置の見直しを約束した。さらに、日本側は福島汚染水の放流と福島産品の輸出禁止解除を要求したという。
こうした日韓首脳会談を受け、韓国内では「屈辱外交」の大合唱となり、野党、市民団などの反発を招いた。原告・遺族も代理弁済を拒否することを明らかにした。賠償金は韓国企業が肩代わりし、岸田の謝罪の言葉はなかったから当然だろう。尹大統領の支持率は34%に落ち、不支持率は58%に上がった。いずれも元徴用工問題の「解決案」への不満が主たる理由とされる。支給金を受け取った遺族もいるが、存命の原告3人と遺族2人が拒否していることから、完全な解決にはならないだろうと思われる。韓国政府は拒否した原告・遺族の分は裁判所に供託金を預けることで解決と主張しているが、これも法律的な争いとなるだろう。

軍事緊張の朝鮮半島

尹錫悦政権の対朝鮮(朝鮮民主ぎ人民共和国)政策は、「大胆な計画」と呼ばれている。朝鮮が非核化に応じるなら、朝鮮住民の生活改善の支援を行うという内容。これは破産した李明博政権の「非核・開放・3000構想」の焼き直しに過ぎず、朝鮮は「相手にしない」と切り捨てている。安保問題でも朝鮮を「敵」と見なし、①朝鮮への先制攻撃、②朝鮮からの反撃への防衛、③大規模報復攻撃からなる三軸体系を明らかにしている。
こうした朝鮮認識のもとで米韓共同軍事演習の大規模実施を行うようになった。この春3月13~23日に「フリーダム・シールド」を実施した。休むことなく行われ、歴代最長の軍事演習となった。軍事演習の内容としては、朝鮮への先制攻撃、指導部暗殺の「斬首作戦」、朝鮮の治安維持をも想定されており、侵略・占領演習といえるだろう。
演習はそれ以前から行われた。朝鮮が対抗措置として2月19日にICBM「火星15」の発射実験を行なうや、翌19日に米韓両軍が韓国上空で戦闘機の訓練を実施し、日米両軍も日本海上で戦闘機の編隊飛行を行った。2月22日には日米韓が日本海で朝鮮の弾道ミサイル迎撃のための共同訓練を実施した。これには海上自衛隊のイージス艦「あたご」と米韓のイージス駆逐艦の計三隻が参加した。陸上軍を主とする「フリーダム・シールズ」では米韓両軍の演習だが、空と海では日米韓三軍の軍事訓練になっているのだ。筆者はこの期間、米韓大使館への抗議行動に参加したが、防衛省にも行くべきだったと思う。
こうした日米韓の軍事訓練に対して朝鮮も対応せざるを得なかった。2月19日には前述のICBM発射、2月20日に600ミリ放射砲(ロケット砲)の射撃訓練、2月23日に戦略巡航ミサイル「フォサル(矢)」4発を日本海へ発射など、双方の軍事行動が続いていた。しかし、米国側は戦闘機、空母、戦略爆撃機、陸上部隊など全ての軍事部隊を動員しているのに対し、朝鮮側はロケット砲、ミサイル試射だけで対応している。朝鮮はこれらの試射によって多様なミサイル開発、発射方法を向上させている。朝鮮半島はいつ戦争が起こっても不思議ではない軍事緊張のなかにあった。

ウクライナ危機の影と米韓首脳会談

バイデン政権は、1年を過ぎたウクライナ危機に対して「ロシア制裁・ウクライナ支援」の先頭に立って戦争支援をしている。そして、「民主主義と専制主義」の戦争だとして世界的な「ロシア制裁・ウクライナ支援」への動員を組織しようとしている。バイデン政権にとっての主敵は中国であり、東アジア・太平洋地域に戦線を拡大するべく呼びかけているわけだ。オーストラリア、ニュージーランド、日本、そして韓国をNATO首脳会議に参加させ、準同盟国にしようともしている。東アジアで「ロシア制裁・ウクライナ支援」に参加しているのは日本と韓国だけだが、岸田政権は南西諸島の基地建設とGDP比2%の軍事費拡大でバイデンの呼びかけに応えようとしている。
尹錫悦政権もまた、バイデンの呼びかけに応えようとしている。日米韓の軍事的協力を作り出すため、元徴用工問題での国内の反対をよそに、日韓関係改善に前のめりの姿勢を見せた。最近の尹錫悦大統領は、それだけでなく、バイデンの喜びそうな発言が目立つ。台湾の問題について「力による現状変更に反対」と述べ、中国から「口出しするな」とクギを差されたこともあった。韓国の核問題でも「韓国独自の核武装の可能性」に言及したり、「韓国式核共有」を語ったりしていた。4月の世論調査によると、「有事のさいにアメリカが韓国のために核兵器を使用しないと考える人」が54・2%、「韓国独自の核保有賛成」が56・5%であり、こうした不安視する世論にも後押しされての発言だった。
こうして4月26日に国賓として訪米して米韓首脳会談を行い、「ワシントン宣言」を明らかにした。経済団体を引き連れての訪米でもあり、両国の経済協力を取り付け、先端技術からの中国外しも話されたという。安保問題では、核共有までは行かなかったものの、「拡大抑止」を鮮明にし、「核協議グループ」の設置に合意し、核兵器を搭載可能な原子力潜水艦の韓国派遣を受け入れた。戦略原潜の受け入れは1980年代前半以来となる。今年は米韓同盟70年の節目だが、「世界の自由と平和、繁栄に向けたグローバル同盟だ。同盟の70年の歴史を振り返り、未来を設計するためにここにきた」と語ったという。今年は南北停戦70年でもあるが、南北の関係改善どころか、南北対立に前のめりなのが尹錫悦政権。これほど反労働者、反統一の政権はかつてない。その尹錫悦大統領は5月の広島G7にも再来日する予定であり、一層バイデンに寄り添うことになるだろう。
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「台湾有事」を煽るバイデン政権

岸田政権はこのところ、軍拡・増税路線に向かっている。NATO並みのGDP比2%の国防費が必要だといい、そのための財源を増税で賄おうとしている。トマホーク400発の購入も公言している。その前提となる安保3文書を国会無視の閣議決定で行った。これは民主主義に反する行為であり、許し難い暴挙。日本の安全保障にかかわる重大な変更にも関わらず、国民的な議論を避けようとしているのだ。現在でも沖縄の基地負担は過重だが、与那国島(2016年)、宮古島(2019年)、奄美大島(2019年)、石垣島(2023年)と基地建設をさらに進めようとしている。それらは1,000キロ以上の射程距離を有するミサイル基地を軸にしたもので、朝鮮半島と中国大陸を射程内にしている。敵基地攻撃能力を有する新たな基地を建設するといいながら、「専守防衛を堅持する」とも豪語している。その国語能力を疑わざるを得ない。こうした日本政府の動向は、バイデン政権による新冷戦思考に追随するものであり、中国と朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に対する敵視政策である。バイデン政権の狙いは、ウクライナ情勢に触発されながら、「民主主義と専制主義」なる冷戦思考を東アジアにも広げようとするものだ。「明日のウクライナは台湾」とばかりに、台湾有事を煽っている。東アジアにおける対峙は朝鮮半島と台湾海峡にあるが、ここでは台湾海峡に焦点を当てたい。

ひとつの中国

まず、台湾の立ち位置について確認する必要がある。
新中国・中華人民共和国が成立したのは1949年10月のことだ。国共合作によって日本を追い出した中国では、新中国の主導権を争う国共内戦が始まっていた。中国では国共内戦を「解放戦争」「人民解放戦争」「第三次国内革命戦争」などと呼称しており、事実上後ろ盾になっているアメリカの支配から全中国を解放する闘いとされる。1949年10月の時点でも、中国南部地域は蒋介石率いる国民党軍が支配していた。国民党軍は広州(10月14日)、重慶(11月30日)、成都(12月27日)を次々と失い、12月6日には台湾まで撤収することになった。ちなみに、重慶解放までの地下共産党の闘いは小説『紅岩』で描かれている。国民党軍は、1950年に海南島の拠点を失い、舟山群島、万山群島を失って大陸側の全ての拠点を失った。この国共内戦において米国は一貫して中華民国・国民党軍を支援してきた。アメリカだけではなく、日本もまた中華民国を中国の唯一の政府としてきた。中華人民共和国は、その国名で呼ばれることなく、中国共産党の支配地域として「中共」と呼ばれていたのを記憶している人も多いだろう。台湾は戦勝国として国連常任安保理の一角を占めていた。
 日米などの中国封じ込み政策に対抗して自力更生路線のもとで社会主義建設を進め、中国が国力をつけた1970年代になって中国と台湾の国際的な地位が逆転する。1971年7月にニクソン大統領が訪中を発表し、翌年1972年2月には北京を訪問した。アメリカは1979年に米中国交正常化を行い、台湾との断交を行った。こうした米国の変化のなか田中角栄首相のもと1972年9月に日中平和条約が結ばれ、国交正常化が実現した。台湾との間には日華条約が結ばれていたが、日本は台湾と断交し、「ひとつの中国」を受け入れた。こうして中国は台湾に代わって国連安保理の理事国となった。
この時点で北京政府こそ中国の唯一の政権であり、「ひとつの中国」には台湾も含まれると約束したのではなかったか。「ひとつの中国」とは北京政府を中国の唯一の政府として認めることであり、北京政府は「台湾は中国の不可分の領土の一部」と主張し、それは国連総会決議第2758号に明記されている。もちろん、台湾は台北政府によって実効支配されているが、北京政府の立場からは反政府勢力による不法占拠という認識であり、解放戦争は続いているのだ。

台湾有事とは

台湾は中国の一部であり、両岸問題は中国の内政問題となったのだ。にもかかわらず、米国は台湾に武器売却し、内政問題に干渉しつづけている。それは基本的に国共内戦時の米国の姿勢と変わるところがない。国内に反政府勢力が実効支配する地域があれば、武力解放する権利はその国の主権に含まれるのは当然だ。米国は台湾と断交したことから、米台間の条約などは存在せず、台湾防衛は米国内法によって行われている。「台湾旅行法(2018年2月)」によれば、①米国閣僚級を含む米政府の高官が台湾訪問し、台湾当局者と会談することを許容、②台湾高官が訪米し、米国当局者と会談することを許容、③「台北経済文化代表処」などの台湾の機関が米国で活動することを推奨。次に、「TAIPEI法(2020年3月)」で、①米政府が積極的に台米間の自由貿易協定の締結、②国際的機関への台湾の参加、③台湾の同盟国に対する維持と支援を積極的に行う。また、米台全体の強化と台湾の国際機関への参加促進のための「台湾保証法(2020年12月)がある。これらの国内法によって米国は台湾に「準同盟国」的な地位を与えており、台湾防衛の根拠としている。
台湾海峡における最近の米中対立のピークは、昨年2022年夏のペロシ下院議長の訪台だった。中国は最大級の軍事演習を展開し、台湾封鎖ともいえる対応を行った。ペロシ氏の後任であるマッカーシー下院議長は親台湾派と言われているが、4月上旬にカルフォルニア州で蔡英文総統と会談するという。マッカーシー氏は訪台を望んだが、台湾側が米国での会談をセットしたという。中国の軍事演習が効いたようだ。蔡英文総統の訪米を前にして国民党の馬永九元総統が訪中した。元総統職の訪中は初めてのことだといわれるが、中国政府の働きかけがあったに違いない。
第3期習近平政権がスタートした。台湾の武力開放に言及しながらも、「一国二制度」による平和統一が基本だと宣言している。米国バイデン政権は武力開放を放棄していないとして「台湾有事」を煽っているが、それはデマゴギーと言わなくてはならない。そして、岸田政権も米政権に追随しながら軍拡路線、とりわけ南西諸島のミサイル基地化を急いでいるのは前述の通り。米国一極支配が終わって米国の凋落が進むなか、日米同盟の世界化、とりわけアジア地域の肩代わりの任に当たろうとしている。

次の争点は総統選挙

さて、両岸関係はどうなっているのか。政治的には対立局面ではあるが、経済的には緊密な関係を維持している。台湾貿易の輸出入のトップは中国で、約三割を占めている。また、台湾から中国への直接投資は第四位だが、香港の一部とバージン諸島からの投資は実質的に台湾資本によるものであり、対中投資のトップである。中国政府もまた、台湾からの投資を促進すべく、さまざまな恩恵措置をとっているという。中国から台湾への直接投資も行われており、経済的な関係はなくてはならず、台湾財界は親中派といえるだろう。国際的に台湾と国交を結んでいる国は13か国に過ぎず、いずれも「小国」であり、中国政府の働きかけに寄って切り崩されてきたのが現状だ。もちろん、国連をはじめとする国際機関からも台湾は排除されている。中国政府は、経済関係強化と国際政治からの排除を推進しながら「平和統一」、すなわち「一国二制度」方式による平和統一を対台湾政策の基本としている。さまざまな回路で台湾世論を平和的統一に向かわせるのが中国の基本方針であり、平和統一への道は着実に進んでいるといわなくてはならない。中国による「台湾侵攻」を声高に叫んでいるのは、米日政府のほうであって、両岸関係には差し迫った軍事的緊張は存在せず、両岸関係を見る限り台湾有事など考えられない。ウクライナ事態を引き合いに出して「台湾有事」を煽っているのはバイデン政権のその追随勢力の側だ。第三期習近平政権は、台湾の独立派と米日などの外部勢力の介入を警戒しており、それらへの牽制として武力解放原則の堅持を表明しているが、それは主権宣言に過ぎない。また、軍事専門家によれば、米軍等の軍事行動に抗して台湾を解放しうる軍事力を有していないという。中国は武力解放しうる軍事力確保を2027年に定めているが、それは中国人民解放軍創設百年の年にあたる。
台湾政治は、独立色の強い与党・民進党と中国に融和的な最大野党・国民党とが政権交代を繰り返してきた。現在は二期目の蔡英文民進党政権が政治を担っている。昨年2022年11月に統一地方選挙が行われたが、民進党は惨敗し、蔡英文は党首を辞任した。22ある県市の首長選では、民進党は5つにとどまり、国民党は13ポストを獲得した。6直轄市では国民党が台北市、新北市、桃園市、台中市の4市、民進党は台南市と高雄市だけだった。統一地方選挙は生活重視の選択になるのがいつものことで、国政をあずかる総統選挙とは趣が異なるとはいえ、国民党の勝利は次期総統選にも影響を与えると思われる。次期総統選挙は来年2024年1月に行われるが、3期が許されていない総統選挙では、蔡英文氏は立候補できず、党主席となった頼清徳氏が総統選候補となった。首相にあたる行政院長をつとめ、独立色の強い人物といわれる。一方、国民党候補は決定されていないが、朱立倫党主席、新北市長の候友宜氏、台北市長を勤めた柯文哲氏、大手電子機器メーカー「ホンハイ(鴻海)精密工業」の創業者の郭台銘氏などの名前が挙がっている。今後の選挙戦と総裁選挙が次の争点となる。
「台湾有事は日本有事」と日本政府は叫んでいる。台湾有事が起これば、必ず米軍が台湾支援の軍事行動を起こすとされる。当然にも在日米軍が主力となることから、日本は参戦国となり、攻撃の対象となり、戦場となるという。しかし、核保有国同士の戦争はかつてありえなかったし、ウクライナ事態の教訓から米軍が関与しない可能性もある。日本が米軍の代わりをすれば、ウクライナ同様に日本は代理戦争を強いられるだろう。専守防衛からはありえないことだし、武力行使を禁じる平和憲法がある以上、外交力で解決するのか筋ではないのか。

韓国ワイパー労組の闘いに御注目を!

この2年ほど関わっていた韓国サンケン労組の闘いは、昨年7月6日に勝利的な終結をみた。毎週木曜日の行動では、埼玉県新座市にあるサンケン電気本社前、最寄り駅の志木駅街宣、池袋の東京営業所前抗議行動があり、朝5時起きの日が続いていた。「支援する会ニュース」作成を2021年5月頃から担当していたので、毎週のニュース作りもあった。そんなシンドイ争議支援が終わって虚脱状態だったが、今度は同じ韓国全国金属の韓国ワイパー労組の闘いが始まりそうとの情報が届いた。尾澤裁判勝利に向けた活動とともに、韓国ワイパー労組支援のための動きが急を告げている。

韓国ワイパー㈱とは

韓国ワイパー㈱は、自動車部品のワイパーを作る会社で、1987年3月に設立された。京畿道安山市の所在で、水原城が有名な水原市から西に行った海辺にある。住所の最後に「海岸路86」とあるから会社からは海が見えるかも知れない。人員は284人で、2018年6月に組合員255人で民主労総の韓国全国金属労働組合京畿支部始興安山地域支会傘下の韓国ワイパー分会(チェ・ユンミ分会長)が旗揚げした。この年に「新車受注」を中止したため、売上高が急落して財政赤字となり、雇用不安となったからだ。韓国ワイパー㈱の資本関係は、㈱デンソーワイパシステムズ(静岡県湖西市、鈴木敦社長)61・5%、㈱デンソー(愛知県刈谷市、有馬浩二社長)38・5%となっており、デンソー資本の100%子会社である。韓国ワイパーの製品はデンソーコリア㈱(慶尚南道昌原市、恩田吉典社長)に納品され、さらに現代自動車、起亜自動車、韓国GMに納品されていた。
韓国ワイパー㈱の財務状況は2014年頃から債務超過に陥り、構造的な赤字体制となった。しかし、組合では意図的な利益移転によるものと見ている。韓国ワイパー㈱の売上原価は製造原価より低いか、ほぼ同額となっていた。これで利益を得るデンソーコリア㈱は、㈱デンソーに年間300億W以上のロイヤリティーを支払っていた。構造的な赤字体制のもとで、利益は日本のデンソー資本に還流していた。外資企業による「食い逃げ」が問題になっているが、韓国ワイパー㈱もその典型的な形といえる。また、㈱デンソーは2005~2022年まで外国人投資企業として少なくとも220億W規模の恩典を受けてきた。賃貸料・地方税の減免や融資支援だが、それらは元をただせば韓国国民の血税にほかならない。

ふたつの雇用安定協定

雇用不安が広がるなか、韓国ワイパー労組は会社側と雇用安定協定を結んだ。第一次雇用安定協定は2020年12月に結ばれ、▽新車受注の再開、▽会社は全従業員の雇用保障と黒字財政に努力、▽代替生産体制をとらない、などの内容だった。代替生産とは、労働組合がストライキに打って出ても別のところで生産しようというもので、いわゆるスト破り行為。このような協定締結にもかかわらず、2021年1月から在庫積み増しを始め、希望退職勧告があり、代替生産を整えようとする文書が明らかになったことから、㈱デンソーワイパシステムズ、デンソーコリア㈱、韓国ワイパー㈱に謝罪と責任を問う闘いを始めた。2021年10月に締結された第二次雇用安定協定の内容は、▽労使の目標売上高の誓約、▽新車受注など営業継続の約束、▽会社側の代替生産禁止および労働組合側の検証、▽清算・企業再構築の事前合意、▽事業譲渡・売却などやむを得ない場合の雇用承継、▽協約違反の際には一人当たり1億Wの違約金を支払うなどとなっている。この協定書には㈱デンソーワイパシステムズとデンソーコリア㈱の代表が連帯して署名捺印をしているが、前述の通り両社代表者はいずれも日本人だ。
組合の判断としては、雇用安定協定はあらかじめ清算時期を決定したうえで、労働組合を欺くための工作だったと見ている。雇用安定協定締結にもかかわらず、履行されなかった。そして2022年7月7日、2022年末の清算計画をSMSメッセージで通知した。6か月後の2023年1月8日から清算手続きに入り、2月18日に整理解雇を行うことを明らかにした。デンソーコリア㈱のワイパー事業部は事業譲渡(売却)し、韓国ワイパー㈱は清算する。その譲渡先企業は韓国資本のDYというが、社長が労働組合嫌いで韓国ワイパー㈱の譲渡を拒否しているという。

韓国ワイパー争議の展開

清算・解雇攻撃を受けた韓国ワイパー労組は闘争体制に入った。韓国ワイパー㈱はもとより、連帯署名した㈱デンソーワイパシステムズ、デンソーコリア㈱に対して協定違反だとして団交を要求する一方、行政や国会議員への働きかけを行ってきた。この間、会社側の希望退職勧告による切り崩しで組合員数は209人となった。40~50代の労働者が多く、過半は女性労働者。
10月からの国政監査でこの問題を取り上げるよう昨年11月7日から金属労働組合京畿支部のイ・ギョンソン支部長と韓国ワイパー分会のチェ・ユンミ分会長が韓国国会前でハンストに突入し、雇用労働部(日本の厚労省に相当)にデンソーコリア㈱まで拡大する特別勤労監査と雇用保障措置を要求した。11月の労働者集会に訪韓した筆者ら仲間4人で韓国国会前でのハンスト行動を激励しに行ったことがある。チェ・ユンミ分会長は韓国ワイパー㈱に18年間勤務している40代のお母さんで、激励に行った日にお連れ合いと息子さんにも会うことができた。このハンストと同時に最大のユーザー企業である現代自動車前集会とデンソー本社への遠征闘争計画を進めていた。闘争の拡大とハンスト者二人の健康リスクが迫るや、会社側が団交に応じ、ハンストは44日間で中止された。しかし、四回に及ぶ年末年始の団交は社会的に関心が広がるハンストを中止させるためで、無回答だったために決裂となった。韓国ワイパー㈱は今後団交に応じないと宣言するに至った。
現代自動車前集会は行われ、第一次日本遠征闘争が12月20~23日に行われた。支部・支会の三人が来日し、JCM(金属労協)との面談、デンソー本社申し入れ訪問、東京と名古屋の労働市民社会団体との懇談会を行った。
清算が明らかになったときから、韓国ワイパー労組は二時間勤務、六時間ストライキの体制で闘いを進めていたが、年末の清算日が過ぎると、韓国ワイパー㈱の工場占拠に突入した。会社側が会社施設をロックアウトしたが、交代しながら24時間体制で工場占拠を続けている。当初設備の搬出が心配されたため、支援も含めた占拠体制を敷いたが、設備搬出を阻止できてからは15人ほどの組合員が交替で占拠しているという。もちろん、行政、関連会社、国会などへの要請行動も行われている。また、清算中止と解雇中止の仮処分を裁判所で申し立ていたところ、水原地方裁判所安山支院は1月30日、解雇禁止の勝利判決を出した。ちなみに、清算については認める決定を出している。
この間、労組が働きかけていた「共に民主党」ウルチロ委員会のパクジュミン委員長と禹元植議員は2月1日、日本大使館を訪れ、浪岡大介経済担当大使と面談した。この面談では「1月30日に法人清算の過程での『労働者に大量解雇したのは不当』という裁判所の判決が出され、新たな分水嶺を迎えた」と伝え、善処するよう申し入れた。
そして、2月13~16日に第二次日本遠征団がやってきた。第二次日本遠征団は9人で、先発隊4人は13日に東京へ、後発隊5人は14日に名古屋で合流。遠征団は全国金属中央の副委員長をはじめ、支部、支会メンバーが参加しており、全国金属労組挙げての取り組みとなっている。東京では全労協ならびに「韓国サンケン労組を支援する」との懇談会、JCMとの面談を終えてデンソー本社に向かった。14日午後に合流した遠征闘争団と支援はデンソー本社に申し入れを伝達しようとしたが、㈱デンソーは拒否。翌15日の出退勤闘争を繰り広げたが、「お引き取りください」の連呼、撮影妨害、女性警備員が「サスマタ」を持ち出す場面もあった。抗議行動は横断幕を広げたり、律動(ユルトン)の踊りを披露したり、大音響での怒りの声を上げたりした。
15日の午後にはデンソーが警察の出動を要請するとともに、鉄製扉を固く閉鎖するに至った。遠征闘争最終日の16日の朝は最寄り駅の刈谷駅頭街宣行動を終えて帰国の途についた。解雇禁止の裁判所決定を受けた会社側は2月16日、18日付の解雇通告を撤回すると明らかにしたが、清算手続きは続けることを表明した。会社が機械・設備を搬出しようとすれば、現場での衝突が懸念されると組合は見ている。
韓国ワイパー労組の闘いの意義はどこにあるのか。
ひとつは、争議の構造からも明らかなように、これは典型的な「食い逃げ」行為である。さまざまな恩恵措置を受けて韓国に進出した日本企業は、組合活動などの抵抗が強くなると、それまでの労使合意を無視して会社清算・解雇を躊躇うことなく実施する。韓国の労働運動では外資系資本による「食い逃げ」行為を防止する法案の模索も行われている。日本企業が韓国の法律や労使合意を無視する企業のあり様は、植民地時代を彷彿させる。このような日本企業の存在は許されず、いわば主戦場は日本だ。
もうひとつは、韓国ワイパー労組との共闘によって日韓の国際連帯の闘いを実現すること。それは熱い韓国労働運動に学ぶことにもなるだろう。闘いはスタートしたばかりだが、日本国内での支援体制の構築が急がれる。

対立深める朝鮮半島

韓国の尹錫悦政権は、昨年5月にスタートして8カ月目入ったが、支持率低迷の低飛行が続いている。5年任期の韓国大統領は、就任1年目は高支持率のもとでスタート・ダッシュにするのか普通で、徐々に支持率を落とし、最終年には政界の関心が次期大統領選に向いてレームダック状態になるのがいつものパターン。しかし、尹錫悦政権の場合は1年目から異例の低支持率が続き、30%台にとどまってきた。
それはなぜなのか。
第一に、大統領が持つべき政治理念の希薄さ。大統領自身に行政経験もなく、国会議員経験もない検察上がりであり、当時の野党「国民の力」に担がれた大統領候補だったからだ。低支持率の理由のなかに「無能」というのがよく登場する。言ってみれば、大統領の器ではないということだ。与党「国民の力」内にも確たる支持基盤がなく、検察畑の人材に頼らざるを得ず、与党幹部との軋轢も絶えない。
第二に、国民分断状況である。そもそも大統領選挙の勝利は得票率の差が1%にもならない0・7%という僅差での当選だった。そのため国民の分断状況に直面しており、与野党の議会勢力でも野党「共に民主党」が多数を占めている。韓国の総選挙は2024年春に行われるので、それまでは少数与党による政権運営を強いられる。したがって、分断ではなく与野党による「協治」が求められているが、政治経験の乏しさゆえにそのような「寝技」を期待することはできない。ちなみに、「共に民主党」の党首は大統領選挙を争った李在明であり、選挙戦さながらの対立をいまも煽っている。
第三に、分断と対立を煽る政権運営。まず、前文在寅政権の対北政策の中心人士への弾圧を続けている。北に融和的だった前政権は、南北協力推進を妨げるものはできるだけ表面化しないように配慮していたが、それらを職権乱用だとして取り締まろうとしている。今のところ文在寅氏までは及んでいないが、その可能性も排除できない。野党党首の李在明に対しても大統領選挙のときにも追及されていた城南市長時代の贈収賄疑惑である大庄洞事件を追及しており、最近李在明自身への検察出頭を要請した。野党「共に民主党」は政治弾圧だと反発している。また、労働界との対立も深刻だ。民主労総傘下の貨物連帯は、11月24日から最賃制に相当する安全運賃制の期限撤廃と適用拡大を求めてストライキに突入したが、尹錫悦政権は国内経済の混乱を前にして「業務開始命令」を出して刑事罰をチラつかせた弾圧に行った。貨物連帯の組合員を事業主として労働者性を否定するものだった。貨物連帯は涙を呑んで12月9日にストの終結に至った。労働界をはじめとする韓国の運動はいま、労組法2条、3条の改正問題に取り組んでいる。第2条は、貨物連帯のような事業主の労働者性を認めない根拠になっているものだし、第3条は争議で生じた使用者の損害賠償請求の制限を定めたもの。韓国では争議にともなう損害賠償事案が後を絶たず、自殺者を出たりして労働者の争議権を制限するものになっている。貨物連帯への弾圧は、韓国労働運動そのものへの弾圧となっている。さらに、民主労総を反社会集団とするキャンペーンが横行し、1月18日には民主労総に国家保安法違反に関連した家宅捜索を行った。民主労総に家宅捜索を行うのも許し難いことだが、選りに選って国家保安法容疑とは驚くばかりだ。尹錫悦政権と労働界、市民社会運動との対立局面を迎えている。こうした弾圧の数々は「検察政局」と呼ばれている。
さらに、158人の犠牲者を出した「梨泰院惨事」を契機に韓国では尹錫悦退陣を求める「キャンドル集会」が毎土曜日に全国的に展開されている。梨泰院惨事を招いた国家責任を問うものだが、尹錫悦政権は梨泰院のある龍山区の行政、警察、消防関係者の責任追及で誤魔化そうとしている。遺族会も結成され、市民・社会運動がともに闘いに合流している。「キャンドル集会」といえば、朴槿恵政権打倒を実現した闘いだけに、今後の展開から目が離せない。

対立深まる南北関係

国内政治における対立だけではなく、南北関係も敵対的なものになっている。前文在寅政権は北に対して融和的な政権だった。朝鮮は2017年に5回目の核実験(9月)、ICBM発射(11月)を成功させ、核保有を宣言した。そして、12月には国連安保理制裁が出されて、南北間は対立局面となった。しかし、2018年になると、平昌五輪への朝鮮の参加(2月)、南北首脳会談・板門店宣言(4月)、米朝首脳会談・シンガポール共同声明(6月)、南北首脳会談・平壌宣言(9月)と続き、朝鮮半島は対立から融和へと進むかに思われた。この融和ムードは、2019年2月の米朝ハノイ会談が物別れに終わるや、停滞を余儀なくされた。米国主導の米韓ワーキンググループが対朝鮮政策の司令塔となり、南北協力・交流は限定的なものになった。文在寅政権の任期は残されていたし、国会勢力も与党「共に民主党」が多数派であったので、南北の協力・交流事業を進めようにすれば可能な条件があったが、トランプ政権からの圧力に屈してしまった。
尹錫悦政権が登場するまでの南北間の直近の合意は、「南北平壌宣言」であり、同時に合意された「軍事分野合意書」だった。「南北平壌宣言」は南北の協力・交流のロードマップであり、「軍事分野合意書」は事実上の南北の終戦宣言であった。朝鮮は新たな核実験とICBM試射を実施しなかったし、韓国も米韓共同軍事演習を小規模なものにしていたので、韓国に対北政策に融和的な政権が生まれれば、融和ムードに回帰する可能性があった。しかし、尹錫悦政権が生まれ、韓国が大規模な共同軍事演習を始めると、朝鮮は核実験とICBM試射のモラトミアムに左右されないと宣言するに至った。
尹錫悦政権の対朝鮮政策は、「大胆な計画」と呼ばれている。朝鮮が非核化に応じるなら朝鮮住民の生活を改善する支援を行うというもの。これは、李明博政権の対北政策「非核・開放・3000構想」の焼き直し政策にほかならならず、尹錫悦政権に李明博政権の対朝鮮政策スタッフが参加していることの反映である。文在寅政権の対朝鮮政策は朝鮮の非核化を前提とするものではなかった。対南政策の朝鮮側の中心にいる金与正党副部長は尹錫悦政権の対朝鮮政策に対して「相手にしない」と切り捨て、南北関係は「板門店宣言以前に逆戻_」と宣言した。また、対朝鮮軍事戦略として「3軸体系」を掲げている。3軸体系とは、①朝鮮のミサイル発射の兆候を探知して先制攻撃する、②発射されたミサイルを迎撃する韓国型ミサイル防衛体系(KAMD)、③朝鮮から攻撃された場合に指導部などに報復攻撃を行う大量反撃報復(KMPR)の戦力を備える戦力増強計画をいう。尹錫悦大統領は最近、韓国を「主敵」と呼び、「独自の核保有の可能性」にさえ言及している。
尹錫悦政権のスタートとともに米国、日本との共同軍事訓練が行われており、それには核攻撃が可能な米空母、戦略爆撃機、戦闘機が参加し、「斬首作戦」を前提とする侵略的なものになっている。朝鮮はこれに各種ミサイル試射などで対抗している。日本のマスコミでは、米日韓の軍事行動を「抑止」と呼び、朝鮮のそれを「挑発」と呼んでいる。日米韓のほうがより侵略的と言わなくてはならない。朝鮮は10月4日に青森上空を通過して太平洋上に落下する弾道ミサイルを発射し、11月18日には大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射を成功させた。その飛行距離は15,000キロで米国本土が射程範囲に含まれるという。日米韓の関係者は、七回目の核実験の可能性に言及しているが、どうなるのか。朝鮮半島の軍事情勢は戦争直前と言わなくてはならない。

岸田政権の軍拡・増税政策を許すな

さて、朝鮮半島だけでなく、東アジアの情勢についても触れておこう。東アジアの情勢にはウクライナ事態と米中冷静という世界的な動向が影響を与えている。米国の主導する「米中冷戦」では台湾海峡が緊張を深めている。日本の右翼陣営は「台湾有事は日本有事」とばかりに「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保持を隠すことなく、GDP2%の軍拡路線に躍起となっている。それらを可能にする安保三文書を国会審議無視の閣議決定で進めている。
韓国もまた、文在寅政権での中立性維持を無視し、「自由で開かれたインド太平洋構想」に参加することを明確にし、日本とともにNATO首脳会談に参加した。アジア諸国でロシア制裁、ウクライナ支援に参加しているのも日韓両国だけだ。
また、日韓両国の軍事協力を優先するあまり、いわゆる徴用工問題では日本企業の賠償も謝罪もない韓国資本の肩代わりで解決しようとしている。前文在寅政権の被害者の意向を尊重し、司法判断を尊重する姿勢をかなぐり捨てた。尹錫悦大統領は検事上がりで法曹界出身だが、自ら大法院判決を無視し、三権分立を無視するとは…。このウルトラCの背景には米国の関与があったに違いない。
ウクライナ事態と米中冷静のもと、いくつかの新たな事態が生まれている。第一に、中ロ、さらに朝鮮との協力関係が強固なものになった。朝鮮の核実験とICBM試射に対する国連安保理制裁は不可能になり、朝鮮には一層の核武装化を進められる条件が生まれた。第二に、東アジアでの米軍の関与はありえなくなった。ウクライナ戦争に米軍並びにNATO軍を投入することは、核戦争の可能性を大きくするものと判断されている。核保有国同士の戦争は避けるべきというのがウクライナ事態からの教訓。だとすれば、東アジアに有事が起これば、日本と韓国が代理戦争を担うことになり、戦場となるだろう。岸田政権の軍拡路線をめぐる論議では、問題にすべきだろう。我々は、岸田政権の軍拡・増税政策に反対しなくてはならない。

ウクライナ事態が問いかけるもの

ウクライナ事態が発生して10か月が経った。ウクライナ大統領・ゼレンスキーはかつて年末までにすべての領土を奪還すると豪語していたが、その願いは叶いそうもなく、事態の長期化が予想される。さて、ウクライナとNATO諸国は、「戦争」あるいは「侵攻」と表現しているが、ロシアは「特別軍事作戦」としていることから、ここでは「ウクライナ事態」としたい。日本政府はウクライナとNATO諸国に同調し、「ロシア糾弾」「ウクライナ支援」という立場であり、日本の報道も英米大本営報道ばかり。ウクライナ事態には情報戦の要素も色濃く、ウクライナ国内の否定的な情報は皆無である一方、ロシア情報はプーチンの病状だの影武者だのというフェークニュースまで横行している。

2・24「軍事作戦」以前について

日本のほとんどの報道は、2022年2月24日にロシア軍が理不尽にも突然「侵攻」を開始したところから始まっている。しかし、事態は突然起こったわけではなく、ウクライナが適切に対処していれば、今日の事態も変わっていただろう。まず、ロシア「侵攻」までのウクライナについて考えてみたい。
1991年にソ連邦が崩壊してウクライナは独立国となった。ウクライナの政権は、新欧米派と親ロ派との間で政権交代を繰り返してきた。北西部が親欧米派の支持基盤であり、東南部が親ロ派の支持基盤だったが、現在のウクライナ事態の様相通りだ。
2004年には親ロ派のヤヌコーヴッチが大統領に当選したが、選挙結果をめぐってオレンジ革命が起こり、新欧米派のユニチェンコ政権となった。この運動のシンボルカラーがおレンジだったことに由来する。ウクライナのオレンジ革命は、世界的に欧米が後押しするカラー革命のひとつ。この年には、ポーランド、スロベキアなど旧東欧8か国がEUへの加盟を果たした。
さらに、2014年には当時のヤヌコーヴッチ政権が反EU政策に舵をとるや、「マンダイ革命」が起こり、ヤヌコーヴッチ政権は崩壊。「マイダン革命」は、「尊厳革命」、「ウクライナ騒乱」とも呼ばれているが、親ロ派は「マイダン・クーデター」と呼んでいる。
「マイダン革命」を受けて親ロ派は、クリミア半島をロシア軍の力も得てロシア併合を実現し、東部のルガンスク州、ドネツク州にそれぞれ人民共和国を作った。こうしてウクライナでは、2014年から内戦状態となった。したがって、今日のウクライナ事態の出発点は2014年ということができる。その後、ウクライナでは親欧米派のポロシェンコ政権、ゼレンスキー政権と続き、ゼレンスキー政権がEU・NATO加盟を鮮明にするや、ロシアの軍事的圧力が強くなる。2021年末にロシア軍は両国の国境とベラルーシとウクライナの国境付近で軍事演習を展開しつつ、ウクライナの中立化を求める外交的解決を模索した。この外交的解決が拒否されたのを機に始まったのが今回の「特別軍事作戦」。

ウクライナ事態の戦況経過

ロシアによる「特別軍事作戦」が行われた2022年2月24日、ロシア軍はウクライナ全域へのミサイル攻撃とともに、北部、南部、東部の三方向から軍事行動を展開した。その主眼は北部からの首都キーウへの進軍であり、ゼレンスキー政権崩壊を目指したものだった。大統領自身の亡命も取り沙汰されるほどに首都陥落は目の前にあった。しかし、ウクライナ軍の反撃にあって断念し、ロシア軍は東南部の確保に作戦変更した。
ロシア軍は東部二州に留まらず、ザボリージャ州、ヘルソン州をも占領地域とし、東南部四州の割譲に着手した。それぞれの地域で住民投票が行われ、ロシア併合を実現した。それらの地域では旅券発行、ルーブル流通、ロシア語の拡散などの「ロシア化」が進んだ。ロシアは自国領土と主張しているものの、ウクライナ時代の州域を反映しておらず、ほぼ全域を支配していたルガンスク州とヘルソン州でも、一部をウクライナ軍が奪還する状況となっている。現在もなお、両軍の攻防戦が続いており、膠着状態にあって国境は定まっていない。
さらに、ウクライナがクリミア半島のロシア軍飛行場とクリミア大橋への攻撃を行うや、ロシアはロシア領土内の民間施設への攻撃とみなし、ウクライナ全域の発電インフラなどの攻撃を開始した。ウクライナ国民の厭戦気分を煽るものだった。ウクライナはさらに、国境から500キロのロシア領土内の空軍基地など3か所を無人機で攻撃した。この攻撃はモスクワも攻撃できることを意味した。現在、冬季を迎えたウクライナは暗闇と厳冬に晒される事態となっている。
ロシア軍の軍事行動当初、停戦協議が行われ、ウクライナ側はウクライナの中立化と領土問題の棚上げで停戦しようとしたが、キーウ近郊ブチャでの虐殺行為が明らかになると、一転して徹底抗戦路線に展開して今日に至っており、停戦協議の展望は見通せない。ブチャの虐殺についてロシアはウクライナの捏造としている。

ウクライナ事態の波及

ウクライナ事態が起こると、NATO諸国とG7などは「ロシア糾弾」「ウクライナ支援」の立場を取り、ロシアへの制裁とウクライナ支援を行っている。しかし、「国際社会」と呼ぶほどに広がっているとはいえない。制裁措置に対抗してロシアは、エネルギーと穀物を武器に揺さぶりをかけている。その結果、ヨーロッパ諸国を中心にエネルギ―価格と物価高騰に直面することになり、EUのインフラ率は10%を超えている。イギリスでは広く労働組合の抵抗があり、イタリアではロシアに融和的な右派政権が生まれた。NATO諸国は、ドイツやフランスなどの停戦派と米英の徹底抗戦派に分裂することになった。NATO諸国のなかではトルコとハンガリーはロシアに融和的な立場をとっている。とりわけトルコは、停戦協議の場を作ろうとしたり、ウクライナの穀物輸出を実現させたりしている。NATO諸国は一枚岩ではなく、事態の長期化で「ウクライナ疲れ」という現象も見られる。
ロシアを支持している諸国には、ベラルーシ、朝鮮などがあり、ベラルーシは軍事作戦の拠点を提供し、ロシアとの軍事協力を行っており、イランは無人機の提供、朝鮮は否定しているものの、砲弾などの提供疑惑がある。いわば、反米諸国がロシア支援を行うようになった。旧ソ連だった中央アジア諸国では、中立的な立場を堅持しているが、それはウクライナ事態を「明日のわが身」という警戒心によるものと思われる。
もっとも大きな勢力はウクライナ事態を静観する諸国。中国、インドなどのBRICs諸国、ASEANなどのアジア諸国、中東諸国、中南米諸国、アフリカ諸国などがある。対ロシア制裁に加わらず、ロシアとの従来の貿易関係を維持していることから、NATO・G7などの制裁効果を限定的にしている。これらの諸国はロシアの低廉な石油資源を入手する機会になり、ロシアは戦費獲得の手段となっている。アジア、アフリカなどの中立的な立場はロシアがかつて民族解放闘争を支持していた歴史的背景によるものだ。
ウクライナ事態で顕在化したことは何か。
第一に、米国とロシアの代理戦争の様相。ウクライナ事態には「侵攻」を受けたウクライナの祖国防衛という側面もあるが、NATO諸国、とりわけ米国の支援・武器供与なしに闘いを進められず、今日のような長期化はなかっただろう。両国の軍事力の差からみて停戦協議が進んでいたと思われる。当初の停戦協議の内容をみればわかる。ウクライナ事態はロシアの弱体化を意図していた米国の仕掛けたものだという見方さえある。1997年からロシアはG8の一角を占めていたが、2014年のクリミア併合による制裁措置で参加国から外された。ロシアを取り込もうとする米国の思惑は外れ、ロシア包囲網が始まった。ウクライナ事態とは、ロシアとウクライナとの戦争という形をとってはいるが、米ロの代理戦争といえるのだ。
第二に、核戦争の可能性。プーチンは軍事行動当初から核使用を示唆してきた。ロシアが国家存亡の危機に直面すれば、核使用を躊躇しないと主張。国家存亡の危機とは、プーチン政権の危機局面とも読み取れる。したがって、ウクライナがNATO加盟国でないこともあるが、核戦争を恐れてNATO諸国は決して派兵しようとはせず、核による抑止力が機能している。ポーランド領内にミサイルが着弾して2名の死亡者が出た11月のときも、ウクライナの迎撃ミサイルの可能性大として、ロシアのミサイル着弾を否定せざるを得なかった。NATO加盟国ポーランドに対するロシアの攻撃だとすれば、NATOは派兵しなくてはならなかったからだ。NATO諸国はロシアの弱体化を目指しているものの、決してロシアが存亡の危機に直面し、核使用するようにならない配慮している。人類史のなかで核戦争の危機がこれほど高まったときはない。
第三に、前述のように世界の大半はロシア・ウクライナ間の紛争、あるいは欧州内の紛争と見なしている。バイデンが「民主主義と専制主義」の戦争と叫んでいるが、前述のように限定的であり、広がっていない。超大国アメリカの凋落は明らかであり、G7のGDPシェアは半分以下となり、その人口シェアも約1割に過ぎない。世界を動かしているのはG20に移りつつあり、多極化の様相だ。ウクライナ事態の長期化によってNATO諸国の疲弊は深まり、ロシアの欧州からの離脱は加速され、一層の多極化となるだろう。
第四に、ウクライナ事態の東アジアへの波及。米国の働きかけによって日本、韓国、ニュージーランド、オーストラリアがNATO首脳会議に参加し、準加盟国になったが、アジア、太平洋諸国への拡散はそれ以上には進まなかった。「民主主義と専制主義」戦略を叫ぶバイデン政権と同盟国は、台湾海峡と朝鮮半島の軍事緊張を作り出そうとしているが、中国と朝鮮のひるまぬ対応に遭遇している。ウクライナ事態で明らかになったように、核保有国同士の戦争は考えられず、台湾、韓国、日本が代理戦争と演じることになるだろう。
最後に日本について。岸田政権は「ロシア糾弾」「ウクライナ支援」の隊列にあるものの、武器供与ではなく軍事装備品提供、ウクライナ避難民受け入れ、ロシアへの経済制裁に参加しているが、サハリン2のプロジェクトには残るなど対ロシア外交には国益的対応も見られる。しかし、岸田政権によるGDP2%の軍事費引き上げは、NATO並みを意識したものだし、敵基地攻撃能力容認などの安全保障政策の変更はウクライナ事態によって加速されたと見なくてはならない。軍拡よりも外交力での紛争解決は、平和憲法の指し示す道であることを肝に銘じなくてはならない。
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